農業と人材育成2

前編の「農業と人材育成」のTipsには、たくさんの反響をいただきました。

ありがとうございました。今回も農業と人材育成のテーマで話をします。

さて、今回は水やりです。

これまでは、家庭菜園で一般的に言われるようにトマトはぎりぎりまで水をあげず、キュウリは水をたっぷりと、と種類に合わせた栽培を意識してきました。人材育成の視点では、相手によって育て方を変えるとして話をしたものです。

今、我が家がしている固定種、無農薬、無肥料農法では、基本的には水は与えず雨水だけで育てています。長く雨が降らず、葉が黄色になりかける手前まで水は与えません。

水を与えないとどうなるか?

水分・養分を求めて根が下へ下へと伸びるそうです。

深く根を張ることで、強くたくましく育つことになります。

逆に水を与えていると、地表近くにある水を吸い上げるため根は浅く、自然界からすると根が弱い作物となるのでしょうね。

このことを知って、農業と人材育成ってほんとうに同じだと思いました。

昨今、新人や若者は丁寧に教えないと育たないと言われます。

もともとの育ちとその環境を見極め、成長がどう変化するのかしっかりと目を配る観察力、タイミングを見て手を差し伸べる判断力が、育成側に大切であることは言うまでもありません。しかし、与えることだけでなく、自身で水と養分を取りに行くことで、深く強い根が張るのではと思います。

農業も人材も本来の力を最大限に伸ばす育成を目指しています。

採用にまつわる『忘れられないご辞退のワケ』

私が前職のエージェントで見聞きした「驚愕の書類選考不合格理由」について、採用活動中の企業様の「採用力向上」の一助になればと考え、ご紹介します。

これは、人事担当者の方というより、現場の責任者に非常に多い印象でした。

・大学の校名だけで決める

 しかし、各大学の学部ごとの試験形式まではご存じない。新設学部について知識がない。そもそも、大学の人気度や強みが「時代によって異なる」ことをご存じない。

 そのせいで、せっかくの逸材を書類選考で落としてしまう…そんな方は、少なくありません。

・サークルや部活に対する思い込み、偏見

 「体育会系はタフで元気がいいが、文化系サークルは内向的」

 「軽音楽部でバンドをしている人は反抗的」などがありました。

 こんな理由でご本人に会うことをせず、書類選考で不合格を出す企業様がいらっしゃいます。

・アルバイトや居住環境について

 「いろんなアルバイトを転々としているのは、我慢ができないからだ」

 「女子学生なのに、お酒の出る店でアルバイト(注:普通の居酒屋です)をする人はコワイ」

 「一人暮らしの女子は採りません。昔から」など。

上記は、いずれも中途採用選考でのお話です。いかがでしょうか。

「職務経歴書」を読み込む前に、キャリアシート(履歴書)だけでジャッジしてしまう選考者が、本当に多いのです。「書類選考読解力不足」と言っても過言ではないとさえ思えます。

ITの発達により、時代の変化のスピードは速くなる一方です。価値観は年代ごとに横軸で細分化され、世代を超えた共通言語も失われつつあります。話し言葉だけでなく、文字として書き写されたものですら、その実態は読み取れないと思うほどです。

選考書類を「読解」することは、かなりの「想像力」と「新鮮な知識」、「柔軟な想像力・推理力」が必要です。かくいう私はどうしているか。年次ごとの流行、事件や災害だけでなく、ヒットしたマンガやアニメ、音楽など、学生生活に影響を与えたものを調べます。特に対象者の中学時代の事物は、人生に与える影響がかなり大きいと感じています。また、見たことがない大学や学部もしっかり調べます。偏差値の数字だけでなく、大学の立地も調べ、どんな学生生活を送ったのかを想像します。場所の情報を事前に理解し、選択できるアルバイトの種類もリサーチします。

「忙しいのに、そんなことまでできない」と言われそうですが、今や人材争奪戦の時代です。「可能性を見出す書類選考力」・「可能性を引き出す面接力」が、これからは絶対に必要です。

経営人材が『育つのを待つ』は、正しいでしょうか

コンサルをしていると、経営人材は意識的に育て上げるものではなく、育つのを待つしかないという受け身的な思考を感じることが多くあります。欧米企業に比べ、日本企業に多く見られる考え方です。背景には、「適材適所」という聞こえの良い考え方のもとで、人材配置を行ってきた経緯があるように感じます。

「なぜその人をその職に就けたのか」と問い詰められても、きちんと説明できず、

「とにかく私を信じてくれ」と言うしかなかった。

適職なのかは、やらせてみないとわからない。その結果、うまくいかなかった。

――このような事例は枚挙にいとまがないのです。

抜擢人事を進めた結果、選抜されない多くの社員がモチベーションを落とした。

うちでは社員全員で頑張っているのだから「平等」に取り扱うべきだ。

登用や選抜にはリスクが内包されているため、このような横並びを尊重する思考になってしまうと考えられます。

しかし、エネルギー自由化やカーボンニュートラル社会の到来という変化の大きな時代には、企業の変革も待ったなしの状況です。時代に合わせ新たな未来を切り拓く経営人材は、

今まで以上に重要な存在になっています。企業変革の道筋では、分社化、事業部制再編、多角化など、様々な経営戦略的側面で経営人材を複数名登板させ、真価を発揮していく必要がでてきます。そして、その価値は、計画的な経営人材パイプライン強化策、体系的な人材育成戦略にも波及していくのです。

未来から今を見る視点を持つと、いま足りない機能は何か、どんな職務が必要か、

遂行できる経営人材は何人不足しているのか、という差分で捉えることができます。

その時にまず必要なのが、明確な職務の定義とその職務を担う人材要件の明確化です。

つまり、意識を180度転換させ、「適所適材」の配置思想にすべき時がきているのです。

その結果、経営人材が「育つのを待つ」という消極的な姿勢から脱却することができます。

つまり、長期的に継続する戦略実現は、優れた人材の「適所適材」にかかっているという強い認識を持ち、意識的かつ積極的に人材強化を図ることが必然となっているのではないでしょうか。

農業と人材育成

昨年から、我が家の庭は一面の畑に代わりました。

作物にとって厳しい冬ながら、現在はキャベツ、ブロッコリー、じゃがいもなどを育てています。当初はホームセンターで苗を購入し、有機肥料を与え、防虫ネットをかけて手厚く(?)育成しました。結果、作物によっては見事に虫たちのえさとなる、散々な結果でした。

その後、いろいろとYouTubeで学び、固定種を購入しました。

自宅の部屋で育苗し、定植も肥料は一切与えず、水も雨水中心として、種からの栽培にチャレンジしています。そんな取り組みの中で、野菜を育てることと人材育成は、何かと共通点が多いと感じています。

まずは何といっても種。人間でいえば、もって生まれた気質、性質、または育ちでしょうか。

現在、市場に出回っている種は、ほとんどが一代限りのF1種(Filial 1 hybrid、一代交配種)です。F1種は、優勢な遺伝子を持つ親同士の異なる性質を掛け合わせて人工的に品種改良し、発芽や生育を揃えたり、耐病性をもたせたりします。

「桃太郎」というトマトの品種は、強い甘みに加え、完熟後に収穫しても輸送に耐えうる硬さを持つため、スーパーの棚に長く置くことができ、廃棄コストが減るという理由で市場を席捲しました。

均一に背丈が揃い、効率よく大量生産することに優れている、手のかからない便利なF1種ですが、優性遺伝が出るのは一代限りです。F1種の作物を育てる農家は、種苗会社から毎年タネを購入しなければなりません。

一方、固定種は、育てた作物から一番良い状態のものを選抜してタネを取り、まきます。

さらに育った作物の一番良いものからタネを取り、育てます。そうした自家採種は、その土地・風土に合うタネをその場所で何世代も繰り返して、つないだものです。

我が家では、固定種を庭の土壌だけで育てています。一代、二代ではうまく育つかわかりません。すでに収穫した葉物は不揃いですが、こんな食感と味だったの?と思える、その種の本来の味やうまみが感じられます。いずれ、品種ごとに我が家の土壌にあった種が選別されていくと期待しています。また、堆肥なしで育てることは、種のもつ強さを活かし、虫と共生する成長になるのではと思っています。

さて、種を人材育成に例えると、人材も粒ぞろいを集めるよりは、いろんなメンバーを揃えて、組織の土壌の中で切磋琢磨することで、土壌の養分をたくさん得てたくましく成長するのであろうと思います。次回は水について考えたいと思います。