目標設定が難しい仕事

新年度に入りました。

よいスタートを切るため、多くの職場が目標設定に取り組まれている頃だと思います。「仕事の性質が目標設定に向いていないのではないか」という疑問から、なかなか筆が進まない方もいらっしゃると想像します。確かに、目標設定が難しい仕事はあると思います。しかし、それにはちょっとしたコツや運用方法がありますので、いくつかご紹介したいと思います。まず代表格としてよくあげられるのが、営業のような職種と違い、数字で目標設定できない仕事です。たとえば、技術部門や管理部門のように、定性的な目標設定が求められる仕事を指します。この場合は、目標設定技術でかなりカバーできますので、別の機会に具体的にご紹介したいと思います。

私が最近問い合わせをいただいた中に、「臨機応変が基本の仕事」は、どのように目標設定したらよいか分からないというものがありました。期首の段階では何が起こるか予測できないが、課題が発生するたびに臨機応変に対応して、解決をする仕事です。たとえば、法務部門や消費者サービスなどの仕事が該当します。このような仕事では、期首に目標設定をしようとしても「今期発生した課題に取り組み、それを解決する」といった抽象的な表現しかできないというお悩みでした。

私がアドバイスしたのは、このような仕事に対する運用方法です。まず役割(=成果責任)だけを明確にしておき、目標は期首の段階では可能な範囲で設定します。不明確なものについては、成果目標を立てずに空欄にしておきます。そして課題が発生した段階で、それを成果目標として具体的に設定します。つまり、通常とは逆のやり方です。もし、その役割(=成果責任)について何も課題が発生しなかった場合には、評価段階でその役割(=成果責任)のウエイトを0%とします。より重要となった他の成果目標にウエイトを配分して評価します。この方法をよりうまく機能させるためには、月次1on1面談を定例化させ、変化する状況を確認しあうこともセットでお伝えしました。このように運用の工夫余地はあると思いますので、同じような悩みのある職場では、ぜひ検討してみてください。

良い評価に納得できない?

ある会社で評価制度の改定を行った際、評価シートの自己評価欄に新たな仕組みを取り入れました。“上司評価に「納得できない」場合は、チェックボックスにレ点を入れる”というものです。評価制度改定プロジェクトのメンバーから、強い要望があってのことでした。

どんな社員が「納得できない」とするのか、私自身の怖いもの見たさもあり、仮導入的な位置づけで、数回だけ行うようアドバイスをしてスタートしました。

上司の評価に対して真正面からレ点を入れるまでの抵抗を示さないのは、日本人特有の性質が影響したのでしょうか。結果は予想通り、レ点を入れた人数は多くありませんでした。一方で、退職を決意するなど余程腹に据えかねたとき以外は申告しないだろうとの予想に反し、意外にも、毎回一定数はレ点を入れてくることがわかりました。レ点を入れた社員には、人事部がフォローするためにアンケートを実施しました。

驚いたのは、良い評価を受けたからといって、必ずしも「納得できる」わけではないことです。その会社の評価制度上、2番目に良い評価にあたるA評価を受けたにもかかわらず、ある社員はレ点を入れました。理由は、「自分の仕事内容を理解していない人に評価されても、

納得はできません」というものでした。このことから、評価制度だけではなく、マネジメントの在り方に注目することが、評価の納得性に大きく影響することが分かります。部下が、上司からの育成的な支援や目標達成に対するサポートがないと感じたとき、つまり、上司が「部下の目標の達成支援者」という役割を果たせていない時は、評価に対する部下の納得性が落ちることを改めて実感させられました。

評価の納得性低下は、部下のエンゲージメントレベルに直結します。退職リスクが高まる最大の要因にもなりかねません。上司が、役割である「部下の目標の達成支援者」を果たしているかどうかに注目することは、退職防止の先行指標となるものであり、月次の1on1の重要性を改めて認識しました。

経営人材が『育つのを待つ』は、正しいでしょうか

コンサルをしていると、経営人材は意識的に育て上げるものではなく、育つのを待つしかないという受け身的な思考を感じることが多くあります。欧米企業に比べ、日本企業に多く見られる考え方です。背景には、「適材適所」という聞こえの良い考え方のもとで、人材配置を行ってきた経緯があるように感じます。

「なぜその人をその職に就けたのか」と問い詰められても、きちんと説明できず、

「とにかく私を信じてくれ」と言うしかなかった。

適職なのかは、やらせてみないとわからない。その結果、うまくいかなかった。

――このような事例は枚挙にいとまがないのです。

抜擢人事を進めた結果、選抜されない多くの社員がモチベーションを落とした。

うちでは社員全員で頑張っているのだから「平等」に取り扱うべきだ。

登用や選抜にはリスクが内包されているため、このような横並びを尊重する思考になってしまうと考えられます。

しかし、エネルギー自由化やカーボンニュートラル社会の到来という変化の大きな時代には、企業の変革も待ったなしの状況です。時代に合わせ新たな未来を切り拓く経営人材は、

今まで以上に重要な存在になっています。企業変革の道筋では、分社化、事業部制再編、多角化など、様々な経営戦略的側面で経営人材を複数名登板させ、真価を発揮していく必要がでてきます。そして、その価値は、計画的な経営人材パイプライン強化策、体系的な人材育成戦略にも波及していくのです。

未来から今を見る視点を持つと、いま足りない機能は何か、どんな職務が必要か、

遂行できる経営人材は何人不足しているのか、という差分で捉えることができます。

その時にまず必要なのが、明確な職務の定義とその職務を担う人材要件の明確化です。

つまり、意識を180度転換させ、「適所適材」の配置思想にすべき時がきているのです。

その結果、経営人材が「育つのを待つ」という消極的な姿勢から脱却することができます。

つまり、長期的に継続する戦略実現は、優れた人材の「適所適材」にかかっているという強い認識を持ち、意識的かつ積極的に人材強化を図ることが必然となっているのではないでしょうか。

我が社の提供価値とは

「御社の提供している価値は、何ですか?」

単純な問いかけですが、“スパッ”と明確に答えられるでしょうか。さらに、その価値が自分よがりなものではなく、お客様の側から見たときに「最上級」の言葉をつけられる価値でしょうか。

「御社は『XXXという提供価値において、“最も”選びたい相手』とお客様から認知されていますか?」と問われたときに、答えに詰まってしまうことはありませんか。この問いかけをご自身に投げかけるところから始められてはいかがでしょうか。

弊社では、組織能力分析という新しいサービスを始めました。まず、企業独自の提供価値は何か、その提供価値を実現するために必要な組織能力とは何か、を分析します。そして、その価値を実現するための組織能力と足りない組織能力の差分や、現状の強みである組織能力を可視化します。そして、成果責任という観点で各組織を整理し、提供価値の実現を後押しします。

これまでNGKが提供してきたコンサル・研修・制度構築等のサービスでも、組織能力を可視化することは心がけてきました。そこから踏み込んで、組織能力を実現する人材要件とは何か、組織能力を実現できる業務プロセス・組織・仕組みになっているのか、組織能力を実現する評価制度として機能しているのかを総合的にサポートするサービスとして体系化しました。

今年は、このサービスをNGKの事業の柱と位置付け、展開していくつもりです。最も大事なことは、提供価値を実現する組織能力とそれを支える業務の流れ、それを実現する職務の設計、そして貢献に報いる評価制度、人財育成、リーダーシップ開発、マネジャーの日常行動(=組織風土)、すべてに一貫性をもって構築することだと思います。

かく言うNGKでは、自社の提供価値をどう位置付けているのかご紹介します。

1.評価の納得性に課題があると感じているとき、最も解決策を提示してくれる相手

2.営業力を強化したいとき、最も有効でCN対応の実用的なコンサルをしてくれる相手

3.採用支援において、最も深く事業・業界を理解し活躍人材との出会いを創出してくれる相手

この提供価値をお客様に認知していただけているのだろうか。NGKでは、その提供価値を届ける組織能力を有しているのだろうか。本年度はそのことに徹底的にこだわって、私たちも組織強化をしてまいる所存です。

ジョブ型人事制度のすすめ

最近、ガス会社の皆様にジョブ型人事制度の導入をご支援する機会が増えております。先日、「ジョブ型人事制度を導入するためには、何から始めればいいですか?」とご質問をいただきました。私は、「まずは自社が『ジョブ型』を導入する意義・目的を明確にすることだと思います」とお伝えしました。人事制度の導入は、単体で良い・悪いが決まるものではありません。どのような戦略を実現するための「ジョブ型」なのか、大義を明確にしておく必要があると思います。そのうえで、目標設定に関するところから始めるとスムーズに取り組みやすいと考えます。

最初は、管理職クラスが自分事として取り組めるように、目標設定スキルを身に着けるとよいと思います。具体的には、目標設定の基となる本人のお仕事の役割・貢献領域、つまり「成果責任」を分析整理することから始めます。ジョブ型人事においては「職務記述書」の作成を推奨していますが、その中心部分が「成果責任」です。課業を大・中・小に分類し、細かいタスクで整理する従来のやり方ではなく、役割を踏まえて、生み出す成果のうち主要なもの7つくらいに絞り、規定します。管理職の皆さんが主体となって「成果責任」を作成する際に伴走していると、「仕事の位置づけが明確になった」「経営に対して生み出すべき付加価値が明らかになった」とのお声をいただきます。そんな時に、ジョブ型の第一歩が踏み出せたという感触を得ます。

皆様の会社では、目標設定の基準となる職務別・役職別の成果責任を明確に規定する必要はないですか。「ジョブ型」に興味がある、もしくは検討されている会社は、そんなところから議論を始めてはいかがでしょうか。