元気人インタビュー 元気人インタビュー ソプラノ歌手 大岩千穂さん

プロフィール
東京都出身。国立音楽大学卒業。ヴィオッティ音楽院オペラ科 マスター・コース首席卒業。96年イタリア、フラヴィアーノ・ラボー国際声楽コンクール第1位。
第1回国際オペラコンクールin Shizuoka最高位、及び三浦環賞他数々の国際コンクールに入賞。活動の場をヨーロッパ各国、アメリカと広げ、国際的に通用する存在感と表現力、そして天性の声は、真のリリコ・スピントとして国内外で注目されている。現在、精力的にソロリサイタル、ベートーベン第九交響曲など演奏会をこなしている。第10回グローバル東敦子賞受賞、98年村松賞受賞、五島記念文化賞オペラ新人賞受賞、リクルート・スカラシップ受賞、01年文化庁在外派遣研修員。05年度(財)ロームミュージックファンデーション音楽在外研究生。二期会会員。
大岩さんをもっと知りたいという方は公式サイトをご覧ください。

本日はアート分野の元気人、ソプラノ歌手の大岩千穂さんです。よろしくお願いします。

まず、大岩さんがソプラノ歌手になられた経緯についてお教えください。

  私は球技が好きで、小学校時代は男の子と一緒に野球をやっていたのです。中学と高校ではテニスを続けていたのですが高校2年生の時に、たまたまNHK ホールの"第九"を聴きに行ったのです。ソプラノ歌手の声が、ホール全体に響きわたるのを聴いて涙が出るほど感動し、心が癒されたのです。「これはいったい何だろう?自分もこんなにすばらしいものを人に与えたい。」と考えてソプラノ歌手になりました。

高校2年生からオペラ歌手を目指されたとのことですが、業界ではスタートが遅い方ではないですか?テニスからオペラの転進に周りの方々はびっくりしませんでしたか?(笑)

  昨日までウィンブルドンを目指していたのが、今日からソプラノ歌手になるというので、驚いたと思います。でも、私は既成概念に囚われることが好きではないので、この転進は私にとっては不思議ではありませんでした。

大岩さんのそのチャレンジャーな姿勢はいつからですか?(笑)

  小学校2年生のときに賛否を問うときに、賛同が少ない方に手を挙げることが少なくありませんでした。そのときの担任の先生が、そんな私に対して、「自分で考えて判断するのはすばらしい」と褒めていただきました。そんなことも自分で考えるという一つの原点になっています。

なるほど。ありがとうございます。では、大岩さんの歌に込めたメッセージは何でしょうか?

  歌いはじめた動機と変わっていません。私が歌を聴いて感動し、自分の使命に気づいたように、私の歌で一人でも多く自分の使命に気づいてもらえればと願っています。もちろんオペラ歌手になるということではなく、自分の本来の天性や、能力、感性に気づいてほしいのです。

すばらしいお仕事ですね。自分を変えるということは、「はっ」と本当に気づくものがないと変わらないものですが、音楽には身体や心に直接伝播し、人の心をダイレクトに揺さぶるものがありますものね。さて、そんな元気を与えるソプラノ歌手として、気をつけられているものの見方や考え方は何でしょうか?

  私はものの見方は3つあると思います。一つ目は『目で見るということ』二つ目は『心の目で見るということ』最後が『俯瞰してみるということ』です。イメージとしては歌っているときに舞台の上の方から歌っている自分自身を見るという感覚です。自分自身を俯瞰することができないと自己満足の舞台になってしまいます。

自分を客観視する、物事を相対化するということですね。このことは会社経営者にとっても大切なことです。ところで、大岩さんにとって、歌いやすい指揮者と、ちょっと合わないな、と思う指揮者の違いってありますか?

  そうですね??。オペラ歌手に合わせようとする指揮者は私にとってはベストとは言えないですね。自分はプロとして指揮者とともに戦場で戦う存在です。主導権をどちらが握るか、というぶつかり合いが大切だと考えています。相手に主導権を握られないようにお互いに力を発揮しながら、お互いにぶつけ合って、そのぶつかり合いから何かが生まれるようなイメージです。そんな相手とのめぐり合いが、自分自身をチャレンジさせ、自己成長できたと実感できます。ピアニストとの相性も同じですね。オペラの舞台では、それぞれが合わせてしまってはうまくいかないと思います。

今のお話は経営に携わるものにとっても、大変示唆にとんだお話です。組織の革新度合いは会議の状態でわかると考えています。会社の会議が、お互いに本音の意見で、異なる意見をぶつけ合ってはじめて、異なる新たな価値が生まれると考えています。一緒ですね。テノール歌手との相性についてはいかがですか?

  一人よがりに自分を出そうとする人も、自分が出ない人も、ともにいい舞台は作れないですね。歌うときのベースとなるものは音符や歌詞ではなく、楽譜の奥にある作曲家からのメッセージであり、時代背景です。歌手同士の相性というのは、そういうレベルで共有できるということだと思います。

会社組織でもビジョンの共有がお題目のように言われますが、掲げているだけでは共有はできなくて、まさにビジョンの背景や言葉の本当の理解がないと共有にはならないのですが、歌手同士の相性でも同じことが言えるのですね。ちょっと意地悪な質問ですが、言葉が共有できない歌手かな??と思ったときはどうやって克服するのですか?

  相手とは事前の打ち合わせをする場合としない場合あります。あえてしないほうが良いケースもあります。事前にディスカッションして相手の言っていることがわからない人とは事前に話はしない方がいいのです。言葉で分かり合えないことは決して音楽では悪い事ではないのです。

なるほど。興味深いですね。では、楽譜の存在って何でしょうか?

  音楽は言葉では話せないこと、伝えられないことを伝えることができます。「楽譜」とは「交通標識」のようなものだと思います。言い換えればオペラでいうとほぼ100年以上前の作曲家の遺言です。細かいルールに従って歌うことが大切なのではなく、その遺言をくみ取って表現することが大切なのです。だから、歴史や背景を勉強しなくてはいけないのです。「交通標識」もたくさん信号があるから事故が起きると聞いたことがあります。信号がないとみんなが気をつけるでしょう。細かいことではなく、最も大切なものに従って、自分で表現することが大切なのです。

そうですね。オペラが作曲された時代と現代は違うわけですから、それを今に伝えるということでは、オペラ歌手そのものが現代のクリエーターなのですね。そのためには、最も大切なものを本当に理解するということが大切だということなのでしょう。さて、では恒例の「元気」についてのお話をお伺いしたいと思います。大岩さんにとっての元気の源は何でしょうか?

  心が病気ではないことです。最近、身内のものが病気になり、病院に行く機会が多いのですが、病人の中にも元気な病人と元気じゃない病人がいます。たとえ余命3ヶ月と宣告されたとしても、元気に生きようと思える人がいます。「元気」とは「心が病んでいないこと」、「絶望の反対側」という感じです。健康な肉体に健全な精神が宿るといいますね。その通りだと思います。しかし、病院にいる患者さんの中にも、健全な精神を持って、生きて行こうとする方を多く見ました。身体が元気ではなくて、心が元気かどうかが重要で、そこには、愛の力や、信仰や、希望がその役割を果たすのだと思います。 また、自分一人になったときに草木や動物など周りの自然から力をもらえることでしょうか。そうした周りの自然から元気をもらいながら一人でどこまでいることができるかが、元気のバロメーターのような気がします。

ありがとうございます。いつも元気一杯の大岩さんですが、元気の本質的な側面をいただいたように思います。大岩さんの夢は何ですか?

  夢を持ち続けることだと思います。私にとっての夢はメジャーになりたいとか、こんな風になりたいといった気持ちはもちろんありますが、大切なことは、夢を持ち続けることだと思います。そして、常に考えること、「祈ること」、「想うこと」が大切だと思います。

大岩さんにとっての人生、舞台での中で輝くということは、どんな状態でしょうか?

  1人で輝くことは難しいですね。輝かせてもらっていると考えています。そのかわり、舞台で、ここで輝かなくてはいけない、という瞬間は、プロとして必ず輝かなくてはいけないんです(笑)。

大岩さんの好きな言葉は何ですか?

  「想う」という言葉です。舞台でのお客さまへの姿勢、プライベートでの友人との関係でも、一方的な「思い」ではなく、相手のことを慈しみ、心から「想う」という意味で好きな言葉です。

大岩さんにとっての元気な色は何でしょうか?

  オレンジと白です。オレンジは元気な色の代表です。白は純白、清潔感。このコントラストもいいと思います。

では、最後に読者の皆さんに元気人からのメッセージをお願いします。

  オペラというと、日本では随分敷居の高い、かしこまった存在で、どちらかというと年配の方々にとっての芸術のように受け取られがちです。でも、本来、オペラはヨーロッパでは、社交の場として、フル回転していた巨大なサロンのような役割も果たしていたんです。ファッションをはじめ、幕間のバーでのひと時や、終演後の遅い時間のレストランでの食事など、オペラを取り巻くビジネスも多様にあったようです。かつてオペラは総合芸術であり、ビジネスチャンスの場だったんですね。わたしは一人の歌手として、いい歌を歌うことが自分の使命ですが、オペラが、ビジネスや人との新たな出会いが生まれるようないい社交の場であってほしいと思っています。その意味では、まずは、私たちの年代の方々にもぜひオペラに来ていただいて、オペラを感じていただきたいと思います。また、音楽は時間と空間の芸術です。音一つ一つは『今』という瞬間の連続だと考えています。オペラハウスの空間が宇宙のように感じられ、音の膨らみが、皆さんの人生の膨らみであればと思います。音楽を楽しむことは、まさに、今を大切に生きることだと思います。命を大切にしてほしいと心から願っています。

ありがとうございました。経営にも通じる本質的なお話をお伺いすることができました。物事を極めていこうとすると、きっと登り方は違っていても、大切にしなければならないことは同じなのだとつくづく感じました。ぜひ、今後ともオペラを通じて、元気を伝えてください。日本元気化プロジェクトとしても今後の大岩さんの活動を微力ながら支援していきます。ともに日本を元気にしていきましょう。