元気人インタビュー 理化学研究所 増田健一さん

理化学研究所 増田健一さん

プロフィール
1992年鹿児島大学卒。動物病院勤務を経てイリノイ大学大学院に留学。その後東京大学獣医学博士課程に進み、助手を経て、2004年理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター ワクチンデザイン研究チームに所属。専門は犬のアレルギーの分析で、現在、同技術による起業を検討中。

『元気なとき–それは明確な夢や目標を目指してわくわくしているとき–夢は獣医の大学を創ること』

現在の研究の内容と今後のビジネス展開について教えてください。

  犬のアレルギーの研究をしています。従来の方法に比べてアレルギーのタイプを正確に診断する仕組みを研究しており、このノウハウを活かして、獣医師向けの画期的なアレルギー診断システムの開発を行い、起業することを考えています。

これまでの増田さんのキャリアと転機について教えてください。

  大学の獣医学科を卒業後、獣医師になるべく動物病院で2年半勤務しました。勤続年数が経過するに従って、動物を治したいという元々の強い思いと、まだまだ知識がない自分を認識することへのジレンマを意識するようになったんです。 勤務すればするほど、そのギャップに悩むようになり、このままでは駄目だということで、一念発起して獣医学の進んでいるアメリカの大学院に行って学びたいと思うようになったんです。

簡単には留学はできませんよね。

  そうですね。留学したいと思ったものの、そもそも英語が障害でしたね(笑)。TOEFLの合格ラインを克服するために、動物病院の仕事からの帰宅後、 夜の12時??1時頃から自宅で勉強を始め、気づくと寝ている毎日でした。勉強している間は布団に寝ることはなかったですね。目的を達成するために徹底しま した。その甲斐もあって、無事イリノイ大学の大学院に合格することができました。

アメリカの大学ではどんな気づきがありましたか?

  心と心を通わせることが大切だと気づきました。多種多様な人種がいるからこそ、心の交流ができる付き合いができたのかも知れません。 また、海外にいるからこそ日本のアイデンティティにも気づきましたね。 アメリカは、システムはいいけれど、能力では日本人は負けないという自負も実感できたことも大きかったですね。「負けるもんか」とね。これが今の自分の自信にもなっています。

アメリカに行かれて価値観が変わったことはありましたか?

  そうですね??。楽しく過ごさないと駄目だ、ということは学びました。彼らは 人の感動を揺さぶる天性のものを持っていますよね。先日、しばらくぶりにアメリカの同窓生にアメリカまで会いに行きましたら「健、よく来た!」と言って泣いて喜んでくれるんですね。感情がストレートです。楽しい環境で働かなきゃ、というのは現在の私の職場でも実践していることです。

イリノイ大学大学院を卒業された後はどうされたんですか?

  日本に帰って研究したいという思いが強く、どうせ帰るなら最高学府でと考え、東大の博士課程に進みました。その後、教授に請われて助手となり、論文を出して博士号を取得しました。そこから本格的に現在の研究分野であるアレルギーの研究をしました。

日本の大学院はいかがでしたか?

  期待していたレベルからすると、がっかりでしたね(笑)。例えば、昔の東大は確かに情報が集まっていたようですが、現在は皆が情報を持っている。そのことに気づいていない。いわば内弁慶ですね。 そんな中、私は出稽古をもっぱらしました。

出稽古って何ですか(笑)?

  他大学の教授と研究成果を発表し合うのです。それこそ最初はコテンパンに叩きのめされましたね。私の研究 チームの弟子たちが私のへこみ具合いを心配したくらいです。でもそのことで、私の研究チームは延べ50本の論文を書くことができました。他流試合によって 研究仮説力がブラッシュアップされるのです。

東大では増田さんは異端だったのでしょうね。

  そうです(笑)。教授によく議論を仕掛けていました。例えば「何を研究しているのか? そのことがどんな成果を生むのか?社会にどう役立つのか?」とね。ほとんどの教授が研究の目的レベルの根本的なことについて満足に答えられないですよ。すると私はいつも「税金を無駄に使っている国賊だ!」と言ったものです(笑)。最後は、教授は皆、私を避けていましたね(笑)。でも今、会うときちんと挨拶しますよ(笑)。

そうなんですね (笑)。それじゃ学生は、なおさら本質的な目的を問うような考え方がないですよね。

  そうですね。助手は言わば大学院生の教育係りですが、私は学生には大変厳しかったです(笑)。掃除や片付け、時間に対してルーズだと、一回目は口で注意しますが、二回目は吹っ飛ぶくらいに真剣に殴りました。今では問題になるでしょうけどね。言って聞かなければ、犬猫と一緒でしつけないと気づかないでしょ、とね。泣いてしまう学生もいましたが、その後、学生からは大変感謝されていますよ。

その後、理化学研究所でさらにアレルギーについての研究を進化されたわけですが、なぜ、起業しようと考えるようになったんですか?

  現在の研究を始めたころから、ビジネスを意識し始めたのですが、自身で起業することまでは考えていませんでした。昨年、KSPビジネススクールに参加してから起業について意識し始めるようになりました。
 ※KSPビジネススクール:神奈川県にある神奈川サイエンスパークのベンチャー支援機関である(株)KSPが実施している起業家育成講座

それはなぜですか?

  ビジネススクールでいろんな起業家のゲストスピーチがあったのですが、その方々の話を聞いていると、研究だけでは所詮、自己満足だと気づいてしまったんです。いろいろな話やビジネスの基本を学んで、起業とは社会に還元できる行為だとつくづく思いました。また、私自身、人が喜ぶことが自分にとってうれしいことだと気づいたんです。

どんなことがきっかけで気づかれたのですか?

  某企業と一緒にアレルギー反応が出にくくなるアミノ酸入りのドックフードを開発した際に、企業から獣医師向けの講演を依頼されました。そのとき、獣医師から「治らなかった患者さんの犬が治った。ありがとう」と満面の笑顔で言ってくれたのです。そのとき、本当に人のために役立ててうれしいと思ったんです。

研究者と経営者では求められる専門性も変わると思いますが、実際に起業に踏み切ろうと思ったきっかけは何でしょうか?

起業という道を意識したものの、自身で本当に起業するとまでは考えていませんでした。最大のきっかけはKSPビジネススクールで、資金計画面とビジネス面で支援してくれる人たちと知り合えたことです。自分だけではできるものではないと思っています。

ところで、増田さんはいつから獣医になろうと思ったのですか?

  8歳の頃からです。当時、そんなに裕福な家ではなかったので、セキセイインコしか飼育できませんでした。精一杯の愛情を持って可愛がったのですが、死んでしまったのです。そのときに自分の無力さを実感し、大好きな動物を治せる医者になろうと思ったのです。

なぜ人を治す医者ではなかったのですか?

  人は「痛い」と言えます。動物は「痛い」とは言えません。何も言えない動物を治したいと思ったんです。誰にも負けない獣医になると子供の頃から考えていました。この考えは今でも一貫してぶれない考えです。

増田さんのこれまでの真剣勝負の生きざまがよく分かりました。ありがとうございます。ところで、そんな増田さんにとっての元気の定義を教えてください。

  夢や目標が明確で、その目標に向かって自身がわくわくしているときですね。日ころの状態で言えば皆が笑っている状態かな(笑)。

今の夢や目標は何ですか?

  起業して、今の技術を社会のために役立てて、結果として上場を果たしたいですね。将来は、動物を治したいと本当に思っている学生が、真に学べる獣医の大学を創りたいです。大学を創ることが私の夢です。そして研究やビジネスで得たものを還元したいですね。

なるほど。それは素晴しいですね。ぜひチャレンジしてください。応援します。  では、増田さんにとって、元気を貯めるということはどんなことでしょうか?

  私は子供の頃から剣道をしていましたが、最近、子供と一緒に再び始めました。私にとっての元気の貯め方は、剣道の境地になることです。剣道は高齢者になっても強くなれるスポーツです。理由は、体力勝負ではなく「心のやりとり」で戦う前に勝負がついてしまうからです。「迷う、驚く、怖がる」から自分をコントロールすることが大事なんです。これが、元気を貯める境地です。

増田さんは研究チームに元気を伝えるために何をされていますか?

  絶えず楽しいことを探しています。私の研究チームはいつも笑いが絶えないですよ。そのためにいつもコネタを探しています(笑)。例えば、朝の電車で向いのホームの真面目そうなサラリーマンが、ガクッとこけそうになった、 その時の驚きの表情とか(笑)。そうそう、人を観察するのは好きですね。

増田さんにとっての元気な色は何でしょうか?

  黄色です。いかにも元気そうじゃないですか。

元気になった言葉について教えていただけませんか?

  アメリカでの留学時代の恩師に言われた言葉で「I am very proud of you」です。また、日ころ悩んだときに使う元気になる言葉は、「関係ねぇや!」ですね。これは投やりな意味ではなく、この言葉を言うことによって違う次元に変えて考えることができる言葉なんです。「こんなことに悩んでいたのか」ってね。

最後に読者の皆さんに元気人からの一言メッセージをお願いします。

  「人を理解することが大事だよ」「人に興味を持とうよ」といいたいですね。子供にも言っています。人は複雑系の生き物です。それだけに理解する努力をしなくてはならないと思います。近くにいる人への理解が一層大切かも知れません。 そして、それぞれの人にとって、いい人生であって欲しいですね。

増田さんの一貫した「もの言えぬ動物への思い」、目標に向かって何事に対しても真剣勝負に取り組む姿勢が読者の方々を元気にするメッセージになったと思います。 長時間にわたりありがとうございました。