
スカンジナビア最大の工業デザイン・コンサルタント会社エルゴノミデザイン社の 完全子会社であるエルゴノミデザイン・ジャパン株式会社社長である。ストックホルム大学東アジア言語学部修了後、1984年に来日、スウェーデンの雑誌・ ラジオ・テレビの技術・デザイン分野を専門とする日本特派員を経て、在日スウェーデン大使館に二等書記官として勤務。また、スウェーデンと日本両国間の経 済・文化関係の推進に関して、スウェーデン最大手の福祉用具メーカーETAC社やスウェーデン貿易公団など数々の企業や政府機関のコンサルタントやアドバ イザーを務める。2001年にエルゴノミデザイン社日本事務所を設立し、社長就任、現在に至る。
『デザインはエンジニアリングを芯から元気にする』
ダーグさんはスウェーデンにあるエルゴノミデザインという人間工学にもとづくデザイン会社の日本法人の社長ですが、どのようなデザイン会社でしょうか?
デザインだけではなく、エンジニアリングとデザインの両方を考えるところが、日本の一般的なデザイン会社と異なります。 たとえば、工具メーカーからの依頼で、プロユースのドライバーのデザインを依頼されたことがあります。この場合、われわれは、ドライバーとは何か?という問いかけから仕事を始めます。通常のデザインのアプローチは、今あるものから、より良くしようとします。 われわれは違います。今あるものが求められる機能、シーンから見て正しいかどうか、という視点から始めます。なるほど。そもそもの求められる機能から見るのですね。そのことはデザインを考えるプロセスにどのように反映していくのですか?
デザ インの対象物を使用している人を観察します。よ??く見ます。日本ではラボでデザインを検討する場合が多いようですが、実際の現場ではない「ハコ」の中で は、すべては分からないのです。 先ほどのドライバーを例に説明しますと、ドライバーを回すことが重くなると無意識に両手を使うケースが多いのです。ですから、私どものデザインでは握る部 分がふたコブになりました。ドライバーは手許が滑るものが多いですね。すべるのを防止するには六角形が最適です。でも人間工学的には手を痛めてしまうた め、駄目です。ですので、滑らないゴム素材でカバーしました。そして、接着しない方法でゴムのカバーを被せるための生産技術も当社で開発しました。 現在では、高いもので1本9000円ですが、全世界で年間100万本が販売されるヒット商品となっています。機能面を徹底して追及されるのですね。しかし、すべてを知的所有権で守ることがむずかしいでしょうから、真似されてしまうのではないですか?
真似はされます。しかし真似されることは恐れていません。私どもに発注するメーカーは、先にいいものを作ってブランド力を高めることができます。一度、ブランドができれば、追随されても価格競争に容易には陥らないメリットがあります。また、見た目は真似ても、先ほどのドライバーのように生産技術にまで工夫 した場合は、技術的な参入障壁さえも作れてしまうケースがあるのです。ブランドは、経営資源の一つとも言われるほど、大切なものであり、ブランド価値を上げるために各社とも必死になるわけですが、デザインでブランド力を上げることについて、もう少し教えてください。
デザインを作っていくプロセスで、製品のストーリー性を出すことができます。そのストーリーに顧客はファンになり、ひいては会社にとってのブランド力を高めることにつながります。一方、日本のメーカーのデザインに対する考えはいかがでしょうか?
一般的に日本のメーカーはデザインに対してあまり深く考えていない ようです。デザインは、基本設計が終わってから決めるものととらえています。 私どもは、デザインはエンジニアリングとともにあると考え、エンジニアの方と一緒に考えます。私どもが提供しようとする機能性を追及したデザインは、部品 や仕様が決まってからでは無理です。なぜ、その製品を使うのか、どのように使えれば、より良くなるのか、という原点に戻って考えることが大切なのです。ところでダーグさんは、なぜ、デザインの道に入られたのですか?日本語も大変流暢ですが、日本との出会いも含めてお教えください。
私はスウェーデンの北にある、北極から300Kmの当時総勢25人の村に生まれ育ちました。今は4人しか村にいません。そんな田舎で育ったため、最初はデ ザイナーという仕事があるとは思わなかったのです。最初の仕事は雑誌記者でした。文章を書くのが好きだったのです。しかし、機械も好きで、当時からオー ディオマニアでもありました。日本との出会いは、1982年に雑誌社の取材で日本に来たのがきっかけです。半年間、日本に滞在しました。最初の日本の印象はいかがでしたか?
日本には陶器に代表される、伝統的な技術とデザインがありました。これらの伝統的なものに感銘 を受け、大学に戻って日本についての勉強を1年間行いました。そこで、雑誌記者として、スウェーデンのオーディオや、ビデオ、ファッションを日本に、日本 のいいものをスウェーデンに伝えました。一般的にスウェーデンからみた日本の印象はいかがなものでしょうか?
間違いなく遠い存在です(笑)。残念ながらイメージ的には芸者 と侍の国であり、アジアの一部という認識でしかないですね。しかし、日本とスウェーデンでは共通点もあります。一番の共通点はエンジニアリングに優れた メーカーが伝統的に多いということではないでしょうか。産業構成は似ていると思います。ありがとうございます。さて、エンジニアリングとデザインは一見すると相反する側面もあると思います。ダーグさん自身のエンジニアとデザイナーの両面を備えているようですが・・・。
私の父はエンジニアでした。デザインとエンジニアリングは裏表だと思っています。エンジニアリングが左脳でデザインが右脳、機能と感性といったもので、相反するものでありながら本来は切り離せないものだと思います。では、どのようなデザインが優れているのでしょうか?
スペックがいいのは今や当たり前です。『スペックがよくて、使いやすく、さらにカッコいい』が優れたデザインです。アップルの『ipod』にソニーが負けた理由はここにあると思います。 元来、工業デザイナーは1930年頃から生まれました。以前はエンジニアがデザインしていたのです。エンジニアリングアートという言葉もあるように、審美性も本来は考えたはずです。今はエンジニアリングとデザインが切り離されてしまったことが課題なのかも知れません。なるほど。面白いですね。デザインというとアメリカが先進的なイメージもありますが、ヨーロッパ、スウェーデンとの違いはあるのでしょうか?
アメリカは1930年代に工業デザイナーという言葉からデザインが始まりました。その当時は広告代理店出身のデザイナーが多く、2次元デザインが主流でした。 一方、ヨーロッパでは、イタリアは建築家がデザイン分野に進出しました。 北欧はエンジニアの世界からデザイン会社が生まれました。言わばスウェーデンでは、製品の中からデザインが生まれるような位置づけです。よくわかりました。ではダーグさんが言われるようなデザインを会社が取り入れるために、どんな点に注意をすればいいのでしょうか?
デザインは製品作りの最後に来る問題ではなく、製品開発のプロセスの問題です。そのためには、最初からデザインを考えないと駄目で、この姿勢は経営トップが示すべき姿勢だと思います。日本のデザイン全般について、ダーグさんの印象はいかがでしょうか?
日本は何でも小さくしようとしますね。実際は小さくて使いづらいものが多い ようです。スタイル重視だけでなく、もっとエンドユーザー視点で考える必要 があるのではないでしょうか。ずばり、ダーグさんにとってデザインとは?
皆は洗練されたデザインはアートだと思っているようです。私は、デザインは カッコいいものでもありますが、全体を設計するモノ作りそのものだと考えて います。昔の日本の工具はすばらしかったと思います。作る人が工具を作り、 作る人と使う人が近かったから、機能面(エンジニアリング)を洗練していくこ とで、デザイン性も洗練されていったのでしょう。メーカーが実際に使用する人にもっと近づいていく必要があるということですね。ありがとうございます。ところで恒例の質問をさせていただきます。ダーグさんの元気の定義は何でしょうか?
実は日本に来て初めて習った漢字は「元気」です。元気がなくては何もできま せん。元気な状態とは、好きなことが、好きな人と何かができることです。元 気の人といれば元気になれると思います。 元気のエネルギーの交換があるのではないでしょうか?意識をしてエネルギー の交換を行いますと、いろいろなエネルギーがもらえます。 元気のエネルギーは与えないともらえないですね。元気の交換ができそうな人とそうでない人とをどのように見分けるのでしょうか?
話をすれば分かります。会社に行っても、その社員の顔を見れば元気があるの かどうかわかりますね。ダーグさんの元気の源は何でしょうか?
むずかしい質問ですね??。元気のエネルギーは人から直接もらうものだけでなく、人間が作ったものと出会うことによって元気をもらうことがあります。 いいデザインの製品はメッセージを出していますし、感じるものがありますね。 そんなときに元気になります。また、そんないいものに出会ったあとの美味しいビールです(笑)。ありがとうございます。ところで、ダーグさんの夢は何ですか?
夢がないと元気は出ないですね。今はメーカーに委託されてデザインをコンサ ルティングすることが仕事ですが、自分の企画する商品のデザインを自身で手 がけて世に出したいですね。元気があって、考える頭があれば何でもできると 思います。たとえば、カンボジアに地雷がたくさんあって、困っている。真剣 に考えれば、地雷を除去することはできると思う。真剣に考えれば、人の人生は変わり、意味のある仕事ができると思います。そして、意味のあるデザインも。元気になった言葉について教えていただけませんか?
友達との楽しい会話の中からいつも元気になっています。最後に読者の皆さんに元気人からの一言メッセージをお願いします。
私は日本にいると元気になります。元気にしてくれることが多い国だと思いま す。たとえば、元気においしいものを出してくれる店がある。それは単に食事 を出すということではなく、一声をかける小さい心遣いがあるのです。日本で は「いらっしゃいませ」と声をかけますよね。海外にはありません。 そんな日本に皆さんはいるわけだから、皆さんは恵まれています。 元気に行きましょう!!ありがとうございました。日本人よりも日本の価値をよく理解しているように 感じました。今後も「デザインでエンジニアリングを元気にする」を合言葉に 私どもと日本を元気にしていきましょう。


